(東京大学大学院医学系研究科呼吸器外科学 教授)
2024年4月、一般社団法人 東京呼吸器外科・肺移植振興会を設立することになりました。これまで、大学病院のいわゆる「医局」と呼ばれる組織によって行われてきた様々な教育活動、医師の支援活動ですが、時代の流れとともに、難しさを増しています。その理由の一つが「医局」という組織自体が法的に裏付けのあるofficialな組織とは言い難いことにあり、また組織の不透明さや封建的な部分が批判の対象ともなっていました。
このような状況にあって、われわれより5年も前に改革に取り組まれたのが、東京大学胸部外科の先輩である、北里大学心臓血管外科の宮地鑑先生でした。心臓血管外科振興会を組織し、従来の医局機能を一般社団法人に移すことで、所属する医師をサポートするofficialな組織に見事につくりかえられたのです。
医局から法人へ
私自身は2023年8月、東京大学呼吸器外科の教授に就任したのですが、まず思ったのが、この医局という組織の不透明さが時代にあっていないということでした。そのときたまたま宮地先生のお話を聞く幸運に恵まれ、このたび一般社団法人 東京呼吸器外科・肺移植振興会を設立するに至りました。当法人は、優れた呼吸器外科医ならびに内科医も含めた肺移植医を育成することを第一の目的としています。それぞれの先生方に最も適した研修・教育がどういったものであるかを、教授一人の権限によるのではなく、関連施設の関係者を含めた組織全体で真剣に検討し、また臨床的あるいは学術的に必要な支援を行っていくことを目指します。具体的には、セミナーやハンズオンの開催、キャリアパスに関する相談支援、論文の執筆や出版費用の支援、留学支援といったことになるかと思います。また人生には必ず、さまざまなライフイベントが起こります。当法人には、それぞれの医師が自身と家族の人生を大切にしていけるよう、互いにサポートする互助組織としての機能を期待しています。
そもそも従来の医局は悪いところばかりではなく、そうした「寄らば大樹の陰」というか、困ったときに色々な形で助けてくれる組織としての役割がありました。労働組合や正式な互助組織をもたない医師ーとくに勤務医ーにとっては、例えば自身の病気や怪我といったことが起こった際に様々な形で支援をしてくれるのが医局でした。病院単位でみても医局とつながっていることで、欠員が出たときの常勤・非常勤での人員補充といった融通を利かせられるのも医局の利点ではなかったかと思います。当法人は、旧来の医局制度の良い点を引き継ぎつつ、時代に合わなくなった封建的な部分、不透明な部分をアップデートした組織づくりを目指します。
患者目線でのとりくみ
当法人のもう一つの特徴は、これまでの「医局」に欠けていた患者目線の取入れです。医療界、医師の世界はどうしても閉鎖的になりがちで、なかなか患者さんの本当のニーズが届かない側面がありました。医学の進歩が非常に速いスピードで進む一方、世間にはネットを中心にさまざまな誤情報や歪曲された情報が溢れています。当法人のもう一つの大きな目的として、呼吸器疾患患者やその家族に対する疾患啓発活動、エビデンスに基づいた教育活動、交流などを通じて、患者さん方のアンメットニーズを拾い上げ、医学医療の発展につなげることがあげられます。製薬会社や医療に関連するさまざまな企業は今、例えば治験を行うにしても、患者さんのニーズがどこにあるかを非常に重要視しています。当法人が今後社会に対して果たせる役割の一つが、そうした患者さんのニーズを拾い上げ、企業など第三者に適切な情報提供を行うHubとしての役割があるのではないかと考えています。このような活動を通じて、私たちの専門領域である肺癌等の一般呼吸器外科および肺移植の医療技術の向上および学術的な発展に資することで、医療者および患者双方の視点から、相互に連携して国民の健康と福祉に寄与することを目的としています。